慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎OTITIS MEDIA

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慢性中耳炎

急性中耳炎が治りきらずに長期間炎症が続いたり、再発を繰り返すと鼓膜に開いた穴(穿孔)が閉鎖しないままになってしまいます。鼓膜は再生能力が高く、穿孔が生じてもほとんどは数日から1週間程度で自然に閉じてしまいます。ただし、炎症が長期間続くとこの穴が残ってしまい、鼓膜内側の中耳が外気にさらされて慢性の炎症が続きます。

慢性中耳炎

慢性中耳炎の症状

鼓膜に穴が開いている状態ですから、聞こえの悪化が起こります。また炎症による分泌液や膿などの液体が穴から外耳に流れ出して耳だれを起こすこともあります。特にかぜなどで体調が悪い時に耳だれを起こしやすくなります。
炎症は長期化によって粘膜の肥厚や石灰化を起こします。音を伝える小さな耳小骨が周囲の肥厚や石灰化で可動性を低下させ、伝音難聴により聞こえが悪化します。また、振動を電気信号に変換する蝸牛も炎症によって機能を低下しやすく、それによって感音難聴を起こします。慢性中耳炎では、耳小骨の伝音難聴と蝸牛の感音難聴が同時に起こる混合難聴が起こることもよくあります。聞こえは生活にもお仕事や学習にも大きな影響を与えますので、気になる症状があったら早めに受診してください。

慢性中耳炎の治療

耳だれが続く場合には、薬物療法で耳だれを止めます。この薬物療法で改善されない場合は手術を行います。
鼓膜の穴だけに問題がある場合には、手術で鼓膜穿孔を閉鎖します。
耳小骨に影響が及んでいる場合には、鼓室形成術で鼓膜から蝸牛への音の伝わり方を変える手術を行います。
なお、鼓膜形成術(接着法)の手術時間は30分程度、鼓室形成術は1時間半程度が目安となります。

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真珠腫性中耳炎

真珠腫性中耳炎には「腫」という文字があるため、腫瘍と誤解されることがありますが、腫瘍ではありません。鼓膜の一部が中耳に陥凹して、そこにアカがたまって炎症を起こし、骨を破壊しながら大きくなる中耳炎です。先天性真珠腫もありますが、これは鼓膜に関係なく真珠腫が中耳に存在している状態です。
鼓膜の表面は外耳道の皮膚とつながっていて、アカである角化物ができます。この角化物は自浄作用によって外耳の外に運ばれ、耳あかとして排泄されます。鼓膜が陥凹すると内側に角化物がたまってしまうことがあります。真珠腫性中耳炎では、堆積した角化物が培地になって細菌や真菌が繁殖して感染や炎症を繰り返し、周囲の骨を破壊しながら大きくなっていくと考えられています。

真珠腫性中耳炎の症状

中耳に慢性的な炎症を起こすため、臭いが強い耳だれが出るようになります。
中耳には音を伝える耳小骨、音を電気信号に変換する蝸牛などの重要な器官があるため、真珠腫による破壊でこうした器官がダメージを受けると難聴を起こします。蝸牛機能が低下した場合、治療による機能の回復が現在はまだ望めないため、早期の治療はとても重要です。
さらに平衡感覚を司る半規管に障害が及ぶとめまいを起こします。また中耳には顔面神経が走っているため、真珠腫による破壊が顔面神経に及ぶと顔が曲がるなどの症状を起こすこともあります。

真珠腫性中耳炎の治療

主に手術で真珠腫を除去する治療を行いますが。鼓膜の陥凹が浅い場合には通気療法や経過観察で様子をみることもあります。
病変の状態によって変わりますが、手術時間は約2~3時間が目安となります。

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慢性中耳炎・真珠腫性中耳炎の手術

慢性中耳炎の手術方法は複数があります。以前の手術は内視鏡が太く耳での手術に対応できなかったのですが、近年では、医療機器の進歩によりTEESという手術方法が登場しました。内視鏡が細径でかつ高画質の3CCDカメラを搭載した内視鏡のため、患者様への負担が少なく低侵襲なので手術の回復もはやくなりました。

経外耳道的内視鏡下耳科手術(TEES)

当院では慢性中耳炎の治療として、内視鏡下で行う経外耳道的内視鏡下耳科手術(transcanal endoscopic ear surgery:/TEES)を行っています。ハイビジョン画質の3CCDカメラを搭載した内視鏡を用いた精密な手術であり、低侵襲ですから早い回復が見込めます。

◆TEESの利点とその守備範囲

死角のない広い視野角で病変の範囲を素早く見極め、鮮明な画像で確認しながら治療可能

内視鏡手術では、術野の状況に合わせて医師が自在に視点の移動や視野変更を行うことができます。顕微鏡下手術では死角が生じてしまう部分も、内視鏡ではどんな場所にも近付いて拡大表示が簡単に可能です。これにより病変の見落としや取り残しを軽減できます。特に中耳周辺には顔面神経などの組織や器官が多く、大事な頭蓋底も近接しています。デリケートな部分を繊細に扱うことができるため、内視鏡ではより精緻な治療が可能になります。
さらに、当院ではハイビジョンの高解像度な画像をリアルタイムに確認しながら手術を行っています。肉眼では判別できない病変の微妙な変化による進展範囲の把握、微細な毛細血管の分布などの認識といったミクロレベルの情報を得ることができます。

 

◆内視鏡を用いるメリット1

深部の狭い領域を効果的に可視化できます

中耳手術を顕微鏡下で行う場合、病変から約20cm離れた場所にあるレンズから観察することになります。そのため、広く切開して視野を確保する必要があり、狭い領域の手術であっても耳介の後ろを広く削る必要があります。この部分は病変がなくても削ることになり、正常な骨や粘膜が失われます。中耳内の粘膜には呼吸の際に中耳内圧を保つ役割を持っているため、できれば温存したい部分です。内視鏡を用いた手術では極細の内視鏡スコープが入るだけの傷で可能ですから、侵襲が格段に小さくてすみます。

 

◆内視鏡を用いるメリット2

死角の観察も最小限の骨削開で可能なため粘膜が温存できる

TEESでは外耳道から内視鏡スコープをアプローチさせます。最短距離で手術できるため、粘膜を温存できますし、術後の傷も最小限に抑えられます。そのため回復も比較的早くなります。中外耳道内から鼓膜を4 mm程度挙上することで中耳内の観察と最小限の操作も可能です。

 

精細な観察が不可欠な症例や死角に病変が存在する症例に適応

TEESと顕微鏡下手術は適している症例が異なります。まずは適応があるかどうかの判断が重要です。TEESは、鼓室内病変、死角に病変が進展した症例に適しています。具体的には、精細な観察が必要な慢性中耳炎・耳小骨奇形・外リンパ瘻などの中鼓室病変、真珠腫性中耳炎で病変が鼓室洞や耳管上陥凹にある症例、小児先天性真珠腫、鼓膜の病変などがあります。

術式の種類

手術① 鼓室形成術

鼓室形成術とは、鼓室や鼓室につながる乳突蜂巣に病変がある場合、耳小骨に異常がある場合に行われる手術です。鼓膜に穴がある場合には鼓膜再建も同時に行います。
鼓室形成術はいくつかの種類がありますが、ここでは一般的に行われることの多いものを紹介しています。なお、術後の聴力改善度はⅠ型が最も高く、Ⅲ型、Ⅳ型の順で小さくなるとされています。

鼓室形成術Ⅰ型

鼓室や乳突蜂巣内の病変を除去して、耳小骨連鎖には処置を行わないものです。耳小骨の異常がない場合に行われます。術後、鼓膜の振動はツチ骨・キヌタ骨・アブミ骨と伝わって内耳に伝達されますので正常時と変わりません。

 

鼓室形成術Ⅲ型

アブミ骨の異常はありませんが、ツチ骨やキヌタ骨に異常がある場合に行われます。ツチ骨やキヌタ骨を摘出します。鼓膜とアブミ骨の間に振動を伝えるコルメラを留置して接着します。コルメラは、摘出耳小骨や外耳孔周囲の軟骨といった自家組織や、セラミックやチタンなどの人工素材を用います。鼓膜の振動はコルメラを介してアブミ骨に伝わるため、正常な聞こえとは異なります。

 

鼓室形成術Ⅳ型

アブミ骨は底板と上部構造の二層構造になっています。上部構造が破壊された場合に、コルメラを留置して鼓膜と接着する手法です。鼓膜の振動はコルメラを介してアブミ骨底板に伝達されます。

手術法② 鼓膜穿孔閉鎖術

鼓膜には慢性中耳炎や外傷などによって穴が開くことがあります。外気にさらされるため中耳の感染リスクが高く、耳だれや聞こえの悪化を起こすことがあります。
鼓室形成術や鼓膜形成術などは鼓膜の穴を閉じる方法として優れていますが、日帰りで受けることが難しい場合もあり、負担が大きな手術です。当院では鼓膜の穴を閉じるための手術として、鼓膜穿孔閉鎖術を行っています。この手術は体への負担も少なく、日帰りで受けることができます。アテロコラーゲンでできた人工鼓膜で穴を閉じます。麻酔を含めて20分程度の手術であり、手法が洗練されてきて成功率も上がってきています。

鼓膜穿孔閉鎖術の適応

人工膜で鼓膜の穴を閉鎖するパッチによって聴力が改善する場合に適応とされます。慢性中耳炎による耳だれが続く場合や、鼓膜の穴が比較的小さい場合に適応となります。なお、鼓膜の穴が大きい場合には、鼓膜形成術または鼓室形成術による手術が必要になります。

手術法③ 鼓膜形成術

鼓膜は再生能力に優れているため、通常は穴が開いても数日で自然に閉じます。ただし、炎症により穴が塞がらないことがあり、そうした際に行うのが鼓膜形成術です。耳介後部の皮下組織を少しだけ採取して穴に貼り付け、新しい鼓膜を作るための組織として働くようにします。この手術によって鼓膜が再生されるまでには数週間程度かかることが多くなっています。聞こえは手術後速やかに回復して日常生活に深刻な影響を与えることはありません。
以前は耳介後部に皮膚切開を行って鼓膜をすべて剥離し、側頭骨筋から筋膜を一部採取して移植するという侵襲の大きな手術を行っていて2週間程度の入院が必要でした。現在は接着法という手法によって、日帰りの鼓膜形成術手術が可能になっています。麻酔も含めて手術時間は30分程度ですから短時間ですみ、侵襲も少ないため回復も早くなっています。

鼓膜形成術の適応

鼓膜に開いた穴を閉じることで聴力の改善が期待できる場合に検討される手術です。鼓室に異常がないことが条件になります。適応とされるのは、慢性中耳炎で鼓膜に穴が長く開いている、穴が大きく鼓膜穿孔閉鎖術による回復が困難、鼓膜チューブ留置術の穴が残ってしまった、外傷による穴があるなどの場合です。